運命の三女神 モイラー

モイラー

「さて、ともかくこうしてすべての魂たちが生涯を選び終えると、みな籤(くじ)の順番に整列して、ラケシスのもとに赴いた。この女神は、これからの生涯を見まもって、選び取られた運命を成就させるために、さきにそれぞれが選んだ神霊(ダイモーン)をそれぞれのものにつけてやった。ダイモーンは、まず最初に、魂を女神クロトのところに導き、その手が紡錘の輪をまわしている下へ連れていって、各人が籤引きのうえで選んだ運命を、この女神のもとであらためて確実なものとした。そして、このクロトに手を触れてから、今度はアトロポスのつむぎの席へ連れて行って、運命の糸を、とり返しのつかぬ不動のものとした。そこから魂は、あとをふりかえることもなく女神アナンケの玉座のもとにつれていかれた。」 (プラトン『国家』10巻620)

「国家」 著:プラトン(古代ギリシャの哲学者 紀元前430年-紀元前421年頃)

「国家」の最後の部分で、一人の人間エルの冒険談が語られています。彼は、ある異常な経験に触れています。死して蘇るという稀な経験が描写されています。死 と復活との間で、彼の魂は、あの世の旅の記憶を留めています。

エルの神話

古代のある勇敢な戦士エルは、
戦争で命を落とす。

他の戦死者とともに収容されたが、
なぜか彼の屍体だけ腐敗しない。
そのため、埋葬されずに家まで運ばれたが
その二日後、まさに野辺送りの火にふされようとしたとき、
薪の上で彼は生き返った。

彼はあの世で見てきたことを語り始める。

彼の魂は肉体を離れたのち、
多くの魂とともに、ある不思議な場所に到着した。
そこには大地に2つの穴が並んで開いていて、
天にも別の2つの穴が開いていた。

その天と地の間には裁判官がいて、
やってくる者たちを次々に裁いては、
正しい人々を天国に送り込み、
不正をはたらいた人々を地獄へ送り込んでいた。

裏切りと殺りくを繰り返した独裁者が、
引きずれられるように地獄に送り込まれていった。
彼はおそらく何百年もの間、そこから出てくることはできない。

エルはそこで裁きをうけなかった。
そして、死後の世界の報告者として、
そこで行われることをよく見聞きするようにと言われる。

彼がよく見ていると、
地に開いた穴から、汚れとほこりにまみれた魂たちが上がってき、
天に開いたもう一方の穴からは、別の魂が浄らかな姿で下りてきていた。

長い旅路を終えたそれらの魂たちは、
互いに挨拶を交わし、
それぞれ天国と地獄で経験したことを語り合うのである。

さて、天と地から集まった魂たちは、
それぞれ7日間をそこで過ごすと、8日目に再び旅に出る。
そして旅立ち後、4日目に到達した地点で彼らは、
天と地の全体を貫いて延びる光の柱を目にする。

魂たちはそこに到着すると、
神官が次のような神の意を魂たちに伝える。
現世での生涯が再び始まるということ。
運命を導くダイモーン(神霊・守護霊)を、自分自身で選ぶということ。
これから籤(くじ)である番号札を配るが、
その籤の順番で、さまざまな生涯から自分でひとつの生涯を選ぶということ。
そして、その選択の責任は自分にあるのであり、
神にはいかなる責任もないということ。

そうして神官はすべての者に向けて籤を投げ、
それぞれの者は自分のところに落ちた籤を拾う。

ただし、エルだけは除外された。

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「エルの神話」で興味深いのは、
魂が再び地上に生まれなおす際に、
どんな生き方をするのかが、
クジで決められた順に、
生涯の見本を使って、
『本人が選んで』生まれる、ということです。

「さて、魂たちは、そこに到達すると、ただちにラケシスのところに行くように命じられた。
そこには神の意を伝える役の神官がひとりいて、まずかれらをきちんと整列させ、ついで、ラケシスの膝からたくさんのクジと、いろいろな生涯の見本を受けとったうえで、高い壇にのぼって次のように言った。」

「これは女神アナンケの姫御子、乙女神ラケシスのお言葉であるぞ。
命はかなき魂たちよ、ここに、死すべき族(やから)がたどる、
死に終わるべき、いまひとたびの周期がはじまる。
運命を導く神霊(ダイモーン)が、汝らをクジで引きあてるのではない。
汝ら自身が、みずからの神霊を選ぶべきである。」

この、自ら自身が人生を選んで生まれなおす、
という考えは、古代世界では特別な考えと受け取られて、
その意味で「エルの神話」は重要視されたようです。
ただ、人生の選び方がとても軽い。
以前の生涯がこうだったから、
次はこんな生涯を選ぶんですが、結構安易な選び方です。


女神ラケシス(Lachesis)は、ギリシア神話に登場する運命の三女神、モイラーの一人。クロートーとアトロポスの三姉妹の次女に当たり、運命の糸の長さを測る役目を担って、全ての被造物に一定量の寿命を決定する。彼女の名前は「測定する者」の意味である。


女神アナンケー(Anankē)は、ギリシア神話の女神で、運命、不変の必然性、宿命が擬人化されたもの。ローマ神話では「ネケシタス」(Necessitas)と呼ばれる。
アナンケーはアドラステイアやモイラーの母とされることもある。


女神アトロポス( Atropos)は、ギリシア神話に登場する運命の女神、モイラ三姉妹の末妹である。未来を司り、運命の糸を切るのを役割とする。彼女の名前は「不可避のもの」の意味である。

 

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