マヤのラカンドン族 その2

ラカンドン6
ドイツ人人類学者クリスチャン・ラッチ博士へのインタビュー

Sonia; ‘Gateway to inner Space’というタイトルの本にあなたは素晴らしい研究データを発表されていますが、まず質問したいことは、なぜあなたが人類学に興味を持つようになったのか? です。

Christian; 異なる現実を知る必要があると感じたからさ。つまり、異文化で暮らし、異なる文化の視線から世界を見たいと思ったからだよ。高校を 卒業してからハンブルグ大学で中米の先史民族の言語と文化を専門に教える文化人類学部があることを知ったんだ。我々と異なる現実に住む人たちのことを学ぶ には、まず彼らの言語を学ばねば、なにも始まらないだろう。だから僕はマヤ語のコースをとった。さらには、コロンブスのアメリカ発見以前の世界を今でも維 持しているメキシコ南部の熱帯雨林に住むマヤ族について教わったんだ。

S; その原住民たちとあなたは生活したのでしょ?

C; うん。「ラカンドンの森」と呼ばれる地域に住んでいるセルバ・ラカンドンと呼ばれる人たちとね。彼らにとても会いたかったし、どうしても会わなけれ ばならないという強い気持ちに駆り立てられたんだ。メキシコに着いたらまずユカタン半島で、自分がそれまで学んできたマヤ語が通じるものか試してみたよ。 そして実際にすらすら話せるようになった段階で熱帯雨林に足を踏み入れ、ラカンドン族を探した。

S; 森に入る前に彼らと会えるためになにかアレンジしましたか?

C; いや、ぜんぜん。ただジャングルの中へと歩き進んでいった。前もってできたことは、マヤ語の知識だけだった。ラカンドン族の言語はマヤ語に似ている 部分が多く、スペイン語を彼らに話しかけるよりも信頼感も違ってくるだろうと思ったからだ。ともかく僕は、ジャングルの奥へ奥へと歩いて行った。実際に彼 らに出会うまで2日かかったよ。

「パレンケ」という地名は、ラカンドン族の言葉で「地球のへそ」という意味で、彼らの神話から生まれた。

ジャングルの中を歩き始めた時は、これから何が起こるか予想できないので、僕はとてもワクワクしていた。と同時にちょっとナーバスだったかもしれない。だけどジャングルを歩きながら、木々や植物や動物を見ていたら、なんだかとても落ち着いた気分になってきたんだ。

ラカンドン族の土地に近づいていくにつれて、警戒心やあらゆる思考がストップしている自分を感じられた。あらゆることに対してオープンになれた。

さまざまなシンクロの運びによって彼らと会えたのさ。まず、セスナで彼らの集落に降りていかなかったことは正解だった。次に僕の長髪姿は彼らに安心感を与えた。彼らにとって長髪は、偽りのない人間の姿として見えたのだ。彼らのことわざに、

『髪の毛の短いのは、頭も切り落としたのと同じだから、そんな人間は思考ができん!』

ってあるくらいだ。

とにかく僕は長髪のおかげでずいぶん得した。しかしもちろん、マヤ語が話せたことがいちばんよかった。村のエルダーは、僕が宣教師じゃないってことがすぐに理解できたからね。自分の家に泊まっていいとすぐに言ってくれた。

「僕はジャングルで生活するのを学びたい。僕が住んでいるところは、ジャングルは残っていないからだ」

と、僕はその長老に説明したんだ。そして、彼らが僕を食わせてくれるんなら、なんだってすると、僕は彼らに言った。そのときから僕は彼らのトウモロコシ畑に行ったり、ジャングルで生き延びるためのあらゆることを学び始めた。

S: ハンティングも含まれていますか?

C: もちろんさ。猟はいちばんおもしろかった体験のひとつだった。僕は子供の頃、絶対に銃には一生触れたくないと思ったことがある。戦争は絶対反対だ が、しかしジャングルで生き延びるためには狩りは必然的だ。銃や弓矢に直接触れて獲物を殺すというきわめて基本的な体験だった。自分の手で得たものしか食 べ物はないんだから。狩猟採集は、腕次第なんだ。とても深い体験ができた。というのも、心理的効果がすごいんだ。狩りを始めてから僕のマインドは完全に変 化したよ。

S: ちゃんと猟ができるためには、環境を敏感に把握しないといけないから?

C: そのとおりだ。テレビの画面を通してだけしかジャングルを知らなければ、当然ジャングルには動物がいっぱいいると思うだろう。しかし、実際にはその 正反対で、どんな動物もほとんど目に留まらない。虫くらいしかほとんど目につかない。見つけ出す方法を知らなければ、目に入らない。ラカンドンたちは僕に 動物を見る方法を教えてくれた。

狩りに何度も連れて行ってくれて、さまざまなことを説明して教えてくれた。動物の気配を感じ取ることを教わった。熱帯雨林についての考え方が完全に変わってしまった。いちばん最初に獲物を得た日のことは、今でもはっきりと覚えている。

オウムを殺したんだ。とはいってもオウムはあの辺りでは比較的よく見かける鳥だけど、とてもうまいんだ! 肉は茶色をしているけど、オウムは果物しか食べないので、甘味があるんだ。

ラカンドンは、オウムは体にとてもいいっていうんだ。食べるとすぐにそのパワーが体中に伝わってくる。彼らと一緒に暮らしているうちに、僕は自分の体がすごく敏感になってきていることに気づいたのだ。

彼らの食生活の基本は、トウモロコシ、豆類、少々の野菜類で、魚やさまざまな昆虫類も日ごろから食している。しかし、動物は彼らにとってとても特別なもの ものなんだ。毎日食するトウモロコシからは、一定のエネルギーが提供されるが、本当のパワーは、それ以外に付け加えられたものによって供給されると、どん どん感じられるようになっていった。というわけで、肉が無性に食いたくなる。パワフルな食べ物だからなあ。自分が獲物を捕らえたら、みんなで分かち合うん だ。なんてったって、貴重な食料だからなあ。

僕が初めて動物を獲ったとき、自分で生きられるという自信がついたし、それでもっと自由になれたんだ。それでジャングルの生活に馴染むことができたんだ。ジャングルの生態をもっとよく知ることができたのだ。

スーパーに行ったり、レストランに行くだけなら、食べ物に対してなにもリアルに感じられるものはそこにはない。死んでいる植物や死んでいる動物を買うんだから。

その土地で収穫できる食物を集めるということは、もっとも伝統的な行為であり、我々の意識を何千年も前の意識へと戻してくれる。狩猟体験によって、これほ どにも意識が変わるとは思ってもみなかった。自分でも驚いたよ。自分の中で古い人間の本能が蘇ってきて、ジャングルでの歩き方まで変わってきたんだ。動物 のいる場所がわかるようになった。今まで感知できなかった微妙な音が聞こえるようになったのだ。ジャングルと一体する感覚になったとでもいえるかな。

S: なにかすごく奇妙な狩猟体験をしたって講義で聞かせていただいたのですが、もう少し詳しく教えてください。

C: ああそうだった。あれはちょうど、トウモロコシがほとんど収穫できる時期だった。トウモロコシを狙う獣がいるので、交代で畑を見張らなくてはならな かった。猟には絶好のチャンスでもあった。それで僕も木の上に座って畑を見張っていたんだ。すると4メートルほど離れた枯れ木があって、枝に鳥がとまって いた。

『これは運よく食べ物を授かった』

と思ってその鳥を銃で打ったんだ。その鳥は爆発したように羽がそこら中に舞い散った。その鳥も地面にばたんと落ちたのを見届けたのだが、近づいてみると鳥 の死体もなければ、羽一枚も落ちてないんだ。そして、木を見上げると、その木さえないんだ。まったく信じられなかったよ。酒なんか飲んでなかったし。

村に帰ってからエルダーにその話をすると、彼は僕のことを笑ったんだ。これはよく起きることだって。つまり、ジャングルのスピリットの仕業だというのだ。その説明だけで、僕は満足しなければならなかった。

S: 森の中でそのような経験をすると、西洋的な科学と合理的な世界観は崩れてしまうのでは?

C: たしかにそのとおりだ。僕は子供の頃、ドイツの神話なんかに夢中になって育った反面、とても科学的な思考を通して学んだ。熱帯雨林のジャングルでの 経験で、くだらん科学は捨ててしまったのさ。現実に対する敏感さが消えないように。それは大きなロスだよ。特に学校で教えられるような一世紀もの間基盤が 変わらない科学はなおさらだ。そんな科学を捨てた時からもっと全体性のある世界が開けてきた。

S: ラカンドン族はあなたに種族の秘密や魔法を教えてくれたのですか?

C: もちろん。初めて彼らを訪ねて行ったときは、どんなことを体験するか、まったく予測できなかった。ただ彼らと一緒に生活したいという願望だけだっ た。それがまるで磁石のように彼らの生き方に魅せられ、数年間一緒に暮らした後、ドイツに戻ったり、また彼らを訪ねたりを何度も繰り返した。ラカンドンは 僕を受け入れてくれて、エルダーの用紙として迎え入れてくれた。ドイツに帰ったときは、彼らについての記録をまとめた。とくに彼らの言語に対しては、かな り科学的な研究を行なった。今では彼らの言語をほぼ完ぺきに話すことができる。

S: 彼らの呪文も学ばれましたか?

次回に続く

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